特別対談:「勝てる物語」を描けるか――。若手起業家に問われる資質と、リーダー層が持つべき覚悟(第4回/全4回)|pluszero小代氏 × INTLOOP林
- INTLOOP Ventures Innovation Community編集部
- 6月13日
- 読了時間: 10分
更新日:6月20日

イントロダクション
スタートアップで活躍する若手経営者たちは、どのような環境で育ち、どんな資質を備えているのでしょうか。
今回は、50人以上の経営者を輩出してきたpluszero代表・小代氏と、多くの若手と日々向き合うINTLOOP・林が、それぞれの立場から「起業家としての資質」や「成長を促すための環境づくり」について語り合いました。
成功の決め手は一つではありませんが、共通して見えてくるのは、“自分なりの勝てる物語”を描く力。そして、深く考え抜く思考体力、失敗から学び続ける姿勢です。
そして、若手の可能性をどう引き出すか、彼らを信じて任せるリーダー側に必要な覚悟とは――。対談最終回、ぜひ最後までお楽しみください。
―― 対談冒頭では、小代さんから「多くの若手経営者を育成した」というお話がありました。熱量も含めて、スタートアップで成功していくための経営者に共通する資質や、「こういう条件がないと難しい」と感じるポイントがあれば、ぜひ教えてください。
小代:
これはまた難しい質問ですね(笑)。
私が50人以上の経営者を輩出してきたのは事実ですが、ただ正直なところ、「これができれば絶対成功する」みたいな絶対的な成功の方程式って、実はないんですよね。なぜかというと、まず市場によって求められるものが違いますし、個人ごとの強みも違います。なので、「このスキルがあればOK」というよりは、「自分の強みが活きる市場を選べるかどうか」がすごく重要なんじゃないかと思っています。
たとえば、野球にたとえるなら、草野球で活躍するのと、メジャーリーグで戦うのとでは難易度がまったく違うわけです。自分が今どんなスキルを持っていて、どれくらいの熱量を注げて、どのフィールドなら勝てるのか。そういう“勝てる物語”を、自分自身で描けるかどうかが大事なんです。
そのうえで、あえて「成功しやすい要素」として挙げるとすれば、まず一つは「物事を高いレベルで理解できる力」です。別に勉強じゃなくても、スポーツでも、遊びでも何でもいいですが、何か一つのことを突き詰めて本質的に理解する経験を、できれば若い年齢でしている人は、後々それを起業という分野に応用できるんですよね。
もう一つは、トヨタでいうところの「カイゼン」力。起業していくと、誰でもたくさん失敗します。むしろ小さな失敗なんて星の数ほど出てきます。そのたびにきちんと学んで、改善して、前に進んでいける力。これもとても重要だと思っています。
とはいえ、やっぱり僕が一番大事だと思うのは、「その人なりの勝てる物語を見つけること」です。それが描けたとき、どんな人でも可能性が開けるんじゃないかと感じていますね。
―― 林さんも、たくさんの若手をご覧になっていると思いますが、いかがでしょうか?
林:
そうですね。僕自身は若手経営者を育成した経験があるわけではないので、小代さんのように語れる部分は少ないですが、ただ、いろんな経営者を見ている中で感じることがあります。ちゃんとビジネスとして成り立っている人たちは、若くても、自分のビジネスについてかなり深く考えていて、自信を持って語れるんですよね。
何となくやっているんじゃなくて、「こういう理由でこれをやっていて、次はこういう展開を考えている」みたいに、先の展開まで見据えて動いているのがわかる。だからやっぱり、小代さんがおっしゃっていたようなストーリーが、ある程度描けているのだと思います。それが必ず成功するかどうかは、正直、運の要素もありますけどね。
小代:
間違いないですね。
林:
でも、とにかく「ちゃんと考えきれていること」が大事なんですよね。
僕も昔、コンサルタントをやっていたときに、よく先輩に言われていたのが、「脳に汗をかけ」と。要するに、もう頭から湯気が出るくらい考え抜けと。実際、活躍していた人たちは、やっぱりそういうレベルで考えていました。
最近ちょっとかわいそうだなと思っているのは、若手の中で「残業規制があるから働けない」とか言っている人が増えてきていることです。たとえば、戦略系のコンサルを少し経験している人もいますし、プログラミングやプロジェクトマネジメントをやっているメンバーもいますが、そういった人たちが労働時間の規制に縛られて、やりきれない状況になってしまっている。
小代さんがさっき「若いうちに高度な理解力を身につけた人が強い」とおっしゃっていましたが、それを仕事の中で身につけたいと思っている若手にとっては、今の環境ってなかなか厳しいのではないかと僕は思っています。とはいえ、起業してしまえば、そういう制約は関係なくなるので、その意味でも起業は一つの選択肢になるのかもしれません。

小代:
それも本当にその通りだと思います。
林:
だから、ただサラリーマンになるよりも、「本気で仕事に打ち込みたい」「何かを突き詰めたい」と思うなら、いきなり起業してしまう、みたいな選択をする若者もこれから増えてくるかもしれませんよね。
小代:
そうですね。ただ、成長する・させるという観点では、やっぱり「環境」って本当に大事だなと思っています。
さっき、僕が「50人くらい経営者を輩出してきた」とお話ししましたが、もちろん、僕自身もまだ成長途中です。ただ一つ、意識してきたことを挙げるとしたら、「飛び級」の発想なんですよね。
たとえば、18歳の子に2,000万円規模のプロジェクトでPM(プロジェクトマネージャー)を任せてみたり、19歳で1年にM&Aを3件やらせてみたり。年齢にとらわれずに、本人のポテンシャルに応じてどんどん挑戦させるんです。
今、pluszeroのナンバー2を務めている森は、18歳の頃に僕のベンチャーでインターンとして関わり始め、20歳から子会社の社長を任せました。そこから博士号を取り、AIにも強くて、社長経験がもう15年以上あるような人材になっているんです。
CFOに関しても、大学4年生のときに公認会計士の筆記試験に合格して、監査法人への内定も決まっていた子を、「うちに来て、最年少で上場CFOを目指さないか」と口説いて。実際、25歳で上場を経験して、今は27歳になっています。
私は海外サッカーが好きなんですが、サッカーの世界って、若くして活躍する選手が多いじゃないですか。たとえばバルセロナのラミン・ヤマル選手なんて、17歳で世界レベルで戦っている。そんな飛び級を、ビジネスの世界でもどんどん実現させたいと思っています。
林:
僕はまだ、そこまでできていないのが正直なところで。やりたい気持ちはあるんですけど、組織がある程度固まってくると、なかなか若手を一気に引き上げるのって難しくなる部分もあって…。
若い人を抜擢すると、社内のバランスが崩れたり、いわゆる“おじさんたち”の反発があったりで、けっこう大変なこともあるんですよね。だから、そういうときは、別のチームをつくるとか、環境設計を工夫する必要があるなと感じています。
サッカーの話で言えば、久保建英選手ももう大ベテラン感がありますけど、まだ23歳とかですよね。ああいう、若くして活躍できる人材をどう育てるか。これはビジネスの世界でも本当に重要なテーマだと思います。
―― 若い世代に思い切って任せていくことは、やはり勇気がいることだと思います。そこに関するリスクヘッジについてはどうお考えですか?

小代:
おっしゃる通りで、やっぱりリーダー層には胆力というか、覚悟がすごく必要です。お客様にご迷惑をかけるわけにはいかないので、そこは本当にギリギリまで見極めます。たとえば、お客様と設定した納期より前に、社内用の締め切りを設けておく。そこで進捗を確認して、「ここは手を差し伸べよう」「いや、ここは任せ切ろう」と判断するんです。
でも、こういうのは最初だけで済むことが多いですね。しっかり見込んで任せたメンバーは、たいてい自分たちの予想を超えるスピードで成長していくものなので。
林:
本当にそうですね。私、昔いたアクセンチュアという会社がすごく好きなのであえてお話しますが、昔はもう本当に“(現場に)放り込まれる”ような経験が多かったです。新卒の頃、知識もないのにお客様の会議に一人で出されるなんてこともザラにありました。今ではちょっと考えられないですけどね。
今はそういう、背中に汗をかきながら必死に考える場面って、減ってきている気がします。とはいえ、そういう経験こそが一番力になるとも思っているので、本当は若手にもそういう機会を与えたいです。
ただ、小代さんもおっしゃるように、最近のお客様はコンサル業界のことをよくご存じなので、「ちょっと若手を前に出すのはどうなの?」という空気が出ることもある。だから、現場で鍛えるより、まずは社内で鍛えてから出す、という選択肢も必要になってきますね。
小代:
でもやっぱり、ああいう「汗をかく経験」って、ものすごく学ぶこと、成長のモチベーションになりますよね。
林:
なりますね。僕は、今でもプライム市場の役員クラスの方と商談をすることがあるんですが、正直「ちょっと波長が合わないかも」と感じる方もいらっしゃる。でも、そういう時こそ背中に汗をかくんです。そういう刺激も、たまにはいいなと思ってやっています。
小代:
それ、すごく大事だと思います。
林:
やっぱり僕らも成長し続けなきゃいけないので。苦手なタイプの人とも、どうやってコミュニケーションを取るか。そういうところを含めて自分を鍛える必要がある。
小代:
常にフロンティアというか、自分で自分のハードルを上げ続ける意識がないと、ですね。
林:
本当にそう思います。
―― 最後に、IVICのようなコミュニティに関心を持っているスタートアップCEOの方々に向けて、コミュニティの魅力を中心に、メッセージをいただけますか?
小代:
AIをはじめとするさまざまな先端技術が加速度的に進化している今、イノベーションに前向きな人たちが集まるコミュニティには、ものすごく大きな可能性があります。一つひとつの取り組みが実績となり、その実績がまた新たな仲間を引き寄せ、さらに価値が生まれていく。そんな好循環が生まれる場所に、このIVICがなっていけるといいなと思っています。
まずは小さくても、価値を生み出し続けられるような、意志ある集団にしていくことが大切だと思います。そこに率先して関わってくれる方がいれば、きっと大きな力になるはずです。
林:
私自身も、スタートアップ経営者の方々が集まるいくつかのコミュニティに顔を出していますが、やはり同じ目線で悩みや経験を共有できる仲間の存在って、すごく大きいんですよね。
規模の近い先輩から話を聞くのももちろん学びになりますが、やっぱり同じくらいのフェーズで頑張っている人たちとリアルな課題を話し合えるって、何より心強い。AIという共通領域でつながるベンチャー同士が、これから長く付き合っていける「友達」みたいな関係をつくっていけたら、困ったときに「ちょっと相談してみよう」と思えるカードが自然と増えていくはずです。
このコミュニティを、そういう信頼や協力の土台にしてもらえたら、私たちとしてもうれしいです。

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今や「AIを活用するかどうか」ではなく、「いかに自社らしく取り入れ、活かしていくか」が問われる時代に突入しています。
経営と現場の双方に深く関わる二人の対談からは、生成AIをはじめとした技術を、単なる効率化の手段としてではなく、組織文化や人材戦略と結びつけていく視座の重要性が浮かび上がりました。
また、環境変化のスピードに応じた柔軟な意思決定や、若手経営者に求められる資質にも言及され、スタートアップをはじめとした企業がこれからの時代に備えるうえで、多くの示唆を与える対談となりました。
今後も本メディアでは、スタートアップ経営や、組織づくり・事業成長などにフォーカスした多彩なコンテンツを発信していきます。ぜひご期待ください!