特別対談:“構想力”と“まとめあげる力”が問われる時代へ。AI時代のキャリア・人材戦略(第2回/全4回)|pluszero小代氏 × INTLOOP林
- INTLOOP Ventures Innovation Community編集部
- 6月13日
- 読了時間: 6分
更新日:6月20日

イントロダクション
生成AIの進化が加速する中、多くの業界で「求められる人材像」が大きく変わりつつあります。特にIT業界では、AIがコーディング業務の一部を担い始めたことで、従来のエンジニア像や新人像が再定義されるフェーズに入っています。
では、この転換期において、企業はどのような人材を求め、どんな戦略で育てていくのでしょうか? そして、AIを「使える人」と「使えない人」の間で、キャリア格差はどのように広がっていくのでしょうか?
今回は、pluszero代表・小代氏と、INTLOOP代表・林による対談記事の第2回。経営者として、そして現場を知る実務家として、AI時代の働き方や人材戦略について語り合いました。
林:
以前別の対談でも話したんですが、今後求められる新人像って、かなりハードルが高くて大変ですよね。
小代:
そうですね。正直、つらいと思いますし、ちょっとぶっ飛んだことを言ってしまうと、弊社は採用のあり方自体を大きく変えようとしているところです。
林:
やっぱり、そうなりますよね。
小代:
なので、よく例えとして言うんですが、今後の人材は、飛行機のパイロットのような存在になる必要があると思っています。つまり、普段は自動操縦のようにAIが動かすけれど、何か有事があったときには人間が即座に判断し、対応できる。そんな“スーパーな”レベルが求められるということです。
最近はAIによるコーディングもかなり普及してきて、世間を騒がせていますよね。そうなると、正直なところ中堅以下のエンジニアはもう必要ないと私たちは考えています。そこはAIに任せた方が効率はいい。
では、何が求められるのかというと、全体をコーディネートできる人間です。飛行機で言えば、離陸と着陸、つまり最初と最後が重要ですよね。「こういう構想で行こう」と仕様を固めるフェーズ、そして最終的に仕上げ切るところ。この“構想力”と“まとめあげる力”を持った人が、今いちばん必要とされています。
たとえば、大学のレポートをChatGPTに書かせていた人って、もういらないんですよ。だって、その人を経由しなくても、自分でAIに入力すればいいわけですから。そういう意味でも、私たちはこれから中堅以下のエンジニアの採用を抑制して、トップエンジニア、あるいはトップになれるような人を育てていく方向に、大きく舵を切ろうとしています。

林:
なるほど。
世の中の採用形態は、これからかなり変わっていくと思います。
ただ、とはいえ我々はSIとして、昔ながらの基幹システムの仕事も多く手がけています。そういった仕事って、すぐにAIで自動開発できるような環境には、まだなっていないじゃないですか。
小代:
そうですね。おっしゃる通りです。
林:
今はちょうどトランスフォーム(変革)の過渡期というか、その間に、リスキリングをしっかり進めないといけない。そうしないと、そうした業界の人たちが今後も長く活躍していくのは難しくなると感じています。
小代:
まさにその通りですね。林さんがおっしゃった通り、AIという新しい労働力が登場した今、人間との協働が進んでいきます。すると、これまでの仕事が変化したり、配置転換が起きたりします。そういった中で、新たな仕事に対応する力、つまりリスキリングが、これまで以上に重要になってくると思います。
林:
そうですよね。
―― 企業目線で見ると、やはり「AIを使いこなせない人材は採用を控えていく」という流れが今後強まっていくのだろうと思います。そうなったときに、現時点でAIをうまく使えない人、まだスキルが追いついていない人は、どうやってキャリアを築いていけばいいのでしょうか? そのあたりに何か示唆があれば、ぜひお聞かせください。
小代:
そこは、本当に難しいテーマですよね。ただ、私自身の個人的な考えとしては、「AIという新しい労働力が生まれた」という前提に立つと、これからの時代は“人間らしさ”が、これまで以上にクローズアップされていくと思っています。
たとえば、誰かのもとへ実際に足を運ぶ、相手の気持ちに寄り添う、感情を読み取る――そういった、AIでは代替しづらい、人間ならではの行動や感性が、これからはより価値を持つようになるんじゃないでしょうか。
それに、ゴルフやサッカー、恋愛や音楽、映画など、私たち人間が「楽しむ」「感動する」といった、エンターテインメントや感情体験の分野も、ますます活況を呈していくと予測しています。
一方で、ある程度決まりきったルーティン業務は、AIやAIと連携したロボットが担うようになっていくでしょう。その結果として、人間の可処分時間が増えて、もっと自由に、もっとハッピーに生きられるようになる、そんな時代が来るのではないか。そういう希望を私は持っています。
そしてもし、自分にその変化を後押しする力があるのなら、そんな未来を実現できるような社会づくりに貢献していきたいと思っています。
―― つまり、人間らしい好奇心こそが、これからの時代に最も大切なこと、ということでしょうか?
小代:
はい。私はそう考えています。
林:
私自身、フィジカルな仕事、体を使う仕事って、今のところ賃金があまり高くないという印象があります。だから本当はその仕事をしたいけれど、「それじゃご飯が食べられないから選ばない」という人って、けっこう多いと思うんです。
でも、これから少子高齢化が進んでいく中で、そういった仕事の賃金もだんだん上がっていくはず。たとえば私、ゴルフのキャディーさんなんかを見ていて、「この仕事、安すぎるよ」って感じたことがあって。実際すごく大変な仕事じゃないですか。クレームも多いし、体力も使うし。
だから、こういう現場の仕事に対して適切な評価がされるようになっていけば、人も少しずつ集まるようになって、結果としてサービスの質も上がって、さらに賃金も上がっていく。そんな良い循環が生まれていくのではないかなと。私は、そういう社会になっていくとすごくいいなと思っています。

―― 今のような業界以外で、ノンデスクワーカーの中でも、特に「この業界はもっと地位が上がるべきだ」と思う業界はありますか?
林:
私はやっぱり、介護業界こそが一番人手不足になると思っています。だから、そこを支える人たちの存在は、これからますます重要になってくるはずです。
それから農業などの一次産業もそうですよね。ああいった分野は、日本の基幹産業として、もっと見直されるべきだと思います。
小代:
そうですね。コロナ禍のときに「エッセンシャルワーカー」と呼ばれていたような方々、社会を支えるために欠かせない仕事をしていた人たちが、もっともっとハッピーに、そして良い意味で楽に働けるようになるといいなと思います。
* * *
AIの急速な進化は、エンジニアリングをはじめ多くの業界に変化をもたらしています。これから求められるのは、構想力や、課題を整理してまとめる力を持った「パイロット型」の人材。そして、人間ならではの感情に寄り添う力や、好奇心といった資質の重要性も高まっています。
一方で、SI業界などでは、AIの導入によって変化する現場に対応するためのリスキリングも不可欠に。さらに、介護や農業といった本質的に価値ある仕事が、きちんと評価される社会づくりも求められています。
次回(第3回)「ビジネスを加速させる“同志”の力。共創コミュニティの可能性とは」では、志を同じくする者たちが手を取り合い、ともに未来を切り拓いていく「共創」について語り合います。
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