特別対談:AIは“新しい労働力”。経営の最前線から読み解く、現代企業に求められる視点とは(第1回/全4回)|pluszero小代氏 × INTLOOP林
- INTLOOP Ventures Innovation Community編集部
- 6月13日
- 読了時間: 9分
更新日:6月20日

イントロダクション
今回の対談では、AI技術の社会実装に取り組む株式会社pluszero 代表取締役会長兼CEO・小代義行氏と、多様な専門人材ネットワークを強みに企業の変革を支援するINTLOOP株式会社 代表取締役・林博文が登場。経営の現場と事業開発の最前線を知る両氏が、リアルな視点から語り合いました。
テーマは、AIを「新たな労働力」として捉える発想、スピード感ある意思決定の重要性、さらにはAI活用の現場における組織設計や若手人材の育成に至るまで――。
互いに信頼関係を築いてきた2人だからこそ引き出せた本音を交えながら、AI時代の組織づくりと人の可能性、そして企業に今求められている視点を深掘りします。
―― 小代さん、本日はよろしくお願いいたします。まずは、これまでのご経歴について簡単にお聞かせいただけますか。
小代氏(以下、小代):
よろしくお願いいたします。私は大学卒業後、NTTデータに入社しました。その後、マイクロソフト、そしてINSPiREという会社を経て、31歳のときに起業しました。現在(2025年5月時点)は53歳です。
最初に立ち上げた会社では、若手経営者の育成に力を入れており、多くのメンバーがその環境で成長していきました。その中の2人が新たに起業したのが、現在私が所属しているpluszeroという会社です。
pluszeroが成長を続ける中で、私も声をかけてもらい、参画することになりました。
―― 続いて、pluszeroで取り組まれている事業内容について教えてください。
小代:
一言で言うと、「AIの会社」ではあるのですが、pluszeroには明確な特徴があります。
現在、AI関連企業といえば、生成AIやディープラーニングなど、先端技術の推進を主軸に据えるところが多いと思います。ですが、私たちはそうした潮流とは少し異なるアプローチを取っています。
具体的には、ディープラーニングのような技術だけでなく、従来型のルールベースのシステムや機械学習的なアプローチなども組み合わせながら、人間でいうと“左脳と右脳”のように、異なる特性を持つAIを融合して使っています。
このアプローチによって、機械学習単体では難しい「高い信頼性」が求められる領域、たとえば金融や医療、行政などに対応することが可能になります。こうした分野はまだまだ競合が少なく、いわゆるブルーオーシャンだと考えています。
私たちは、まさにこの「高信頼領域」に特化してAIを展開しています。

―― ありがとうございます。INTLOOPの林との出会いについてもぜひお聞かせください。
小代:
林さんとは、いろんなコミュニティに所属している中で、何度もお会いするうちに自然と顔馴染みになったというのが正直なところです(笑)。
「いつ、どこで初めてお会いしたのか」と言われると、もうはっきりとは思い出せないくらい、さまざまな場面でご一緒しました。
そうした中で意気投合し、ゴルフをご一緒するような関係にもなっていきました。気がつけば、こんなに仲良くなっていた。そんなご縁ですね(笑)。
林:
まだ仕事は一緒にしていないのですが…そのうち、ぜひお願いしたいと思っています。
―― 林さんから見た小代さんの印象はいかがでしょうか?
林:
小代さんは真面目なAI企業を経営されている方という印象が強かったので、最初はとても堅実なタイプの方なのかなと思っていました。でも実際にお話ししてみると、ベンチャーの経営者に必要なフランクさも持ち合わせている方だと感じました。
ベンチャーって、フランクでないと続かない面もあると思っていますが、小代さんはその両方のバランスが絶妙で。真面目さと柔軟さ、そのどちらも兼ね備えた経営者という印象です。
―― 普段は、お二人でどんなお話をされるんですか?
林:
うーん…何を話しているかな? ゴルフの話が多いかもしれませんね。
あとは、小代さんがサッカーをされているので、その話題もよく出ます。「まだこの歳でやってるんですか?」なんて言いつつ(笑)、楽しくお話しさせてもらっています。しかも、かなり本格的にプレーされているみたいで。
小代:
ええ、ガッツリやってますね。

―― ありがとうございます。ではここからは、少し真面目な話に移らせてください。
AIの社会実装や活用が進む中で、企業が直面している課題や、成功のための条件について、小代さんのお考えをお聞かせいただけますか?
小代:
そうですね、これはどのレベルでAIを導入するかにもよると思うのですが、今私自身が強く感じているのは、AIを“新しい労働力”として捉えるべき段階に来ているということです。
最近では「AIエージェント」という言葉もよく聞かれるようになりましたが、これはAIを単なるツールではなく、擬人的に捉えて業務に組み込むという考え方なんですよね。つまり、AIがただの道具ではなく、チームの一員として動くというイメージです。
そういった時代の流れの中で、企業の経営層が「AIという新しい労働力が現れた」ことを前提に、戦略を再構築していく必要があると感じています。
そして、その前提を受け入れたうえで、どこまで勇気を持ってチャレンジできるか。そこが、今まさに問われているタイミングではないかと思います。
―― AI活用の最前線にいらっしゃるお立場から、日本でAIの導入がなかなか進まない背景や、よくあるボトルネックについて、何かお感じになっていることがあればお聞かせください。
小代:
これはもう、皆さんもよくご存じの部分かもしれませんが、やはりAIの進化って日進月歩なんですよね。特に昨今のAIは進化のスピードがものすごく速い。
そうした中で、日本のすべての企業がそうとは言いませんが、意思決定に時間をかけすぎている企業がまだ多いというのは、現場でよく感じるところです。
たとえば、稟議や社内調整に何週間、何ヶ月もかかる。その間にも市場はどんどん前に進んでいってしまう。そうなると、いくら素晴らしい技術を導入しようとしても、市場のスピード感に追いつけずに、結局チャンスを逃してしまうんです。
我々pluszeroとしても、AI導入を進めていくうえで大切にしているのは、そのスピード感についてこられるパートナー企業さんと組むことです。
「ちょっと検討させてください」「社内で調整します」といったやり取りをしている間に、もう技術やマーケットの状況が変わってしまう。そうなると、もう元も子もないですから。
そしてもう一つ。AIって、従来のITシステム開発と違って、やってみなきゃわからない要素が多いんです。だからこそ、不確実性がある中でも、経営層を中心に素早く意思決定できるかどうか。
これは、導入の成否を分ける大きなポイントになると思いますね。
林:
当社でも今、自社でAIエージェントを開発していこうとしています。ただ、やっぱり中核になるエンジンをどう選ぶかというところ一つとっても、すごく悩ましいんですよ。
というのも、毎日のように技術や情報が更新されていくので、どこを選ぶかの判断が本当に難しい。その辺りについて、小代さんはどう考えていらっしゃいますか?
小代:
そこはもう、「どの業務にAIを適用するか」によってまったく違ってくると思っています。
たとえば、pluszeroでは最近、コールセンター業務にAIを適用したサービスをリリースしました。人間にかなり近い柔軟な応対ができるAIを使って、実際にユーザー対応を行っているのですが、こうした高信頼性かつ高柔軟性が求められる業務においては、正直言って「どのモデルを使うか」は、そこまで大きな差にならないというのが実感です。
なぜかというと、今は主要な生成AIモデルがほぼコモディティ化してきていて、大きな性能差があまり見られなくなってきているからです。
ただし、逆にAIモデルそのものの性能に強く依存したプロダクトをつくろうとすると、ちょっとしたモデルの違いがパフォーマンスの差として現れることもあります。
ですから、どこまでモデルに依存する構成にするか。あるいは、自社で制御や設計を加えながら使うのか。その設計の仕方次第で、最適なモデル選定も変わってくるんです。

林:
なるほど。それで言うと、pluszeroさんが付加価値として持っていらっしゃる部分って、AIのエンジンそのものというよりも、その上の開発レイヤーでのカスタマイズ力だったりすると思うんですね。
そのカスタマイズや設計に関して、今後、AIの開発エンジニアに求められるスキルという点では、どういう人が向いていると思われますか?
「こういう能力がないと難しい」とか、逆に「こういう素養があれば強い」といったポイントがあれば、ぜひ教えてください。
小代:
お客様の業務を考えるうえで大切なのは、技術をフラットに、つまりニュートラルに捉えられるかどうかです。特定の技術や手法に依存しすぎて、それだけで何とかしようとすると、往々にして最適な解にたどり着けないことが多いんですね。
私たちの社内では“ディープでポン”という造語を使っています。たとえば“レンジでチン”って言葉がありますよね。それと似たような感覚で、「ディープラーニングに何か入れたら、勝手に何か出てくるんじゃないか」というイメージで業務に適用しようとする人がいる。でも、それでは本当の付加価値にはならないです。
よく考えてみれば、“ポン”と出てくる中身自体には、ちょっとした工夫しかなく、大きな価値を生んでいるのは、実際にはOpenAIやAnthropicのようなモデル提供側です。だからこそ私たちは、モデル以外の部分、たとえば、業務を効率よく回すために必要な原理原則を明確に言語化し、それをベースに、生成AIだけでなく、ルールベースの処理や他のアルゴリズムも含めて、どう組み合わせればお客様にとって最も意味のあるものになるのかを徹底的に考え抜いています。
要するに、技術をニュートラルに捉えながら、お客様の業務に本当に必要な原理や構造を言語化し、それらを統合的にコントロールできるような人材が、今求められていると考えます。
林:
なるほど、ありがとうございます。
* * *
テクノロジーの進化とともに、AIはもはや単なる「ツール」ではなく、企業にとっての「新たな労働力」として位置づけられつつあります。今回の対談では、pluszero小代氏のキャリアや哲学、そして高信頼領域に特化した独自のAI活用戦略を中心に対談を進めていきました。
特に印象的だったのは、AIを“擬人化”し、チームの一員として組み込んでいくという考え方。そして、AI導入の成功には、スピード感ある意思決定と、不確実性を前提としたチャレンジ精神が欠かせないというメッセージです。
次回(第2回)では、「“構想力”と“まとめあげる力”が問われる時代へ。AI時代のキャリア・人材戦略」と題し、AIの進化が個人のキャリアや企業の人材戦略にどのような変革をもたらしているのかについて掘り下げていきます。
あわせてご覧ください。