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大企業×スタートアップの最適解。真の価値を生むコラボレーションとは?(第5回/全5回)

  • INTLOOP Ventures Innovation Community編集部
  • 4月21日
  • 読了時間: 11分

更新日:5月13日



イントロダクション


スタートアップの機動力と、大企業のリソース。その相乗効果を最大化するには、単なる資本関係を超えた「本気の関わり方」が求められます。しかし、実際にはシナジーが生まれず、形骸化してしまうケースも少なくありません。


本記事では、経営者およびコンサルタントとして豊富な経験を持つ椎名氏と林が、大企業によるスタートアップコミュニティの活用法、そして両者が共に成長するためのポイントを議論。単なる出資にとどまらない、実践的な関わりが生み出す真の成果について迫ります。


本対談シリーズの最終回、ぜひ最後までお楽しみください。





―― ここまで、スタートアップの現状や課題について詳しくお話しいただきました。ここからは視点を変え、大企業がスタートアップコミュニティをどのように活用すれば成果につながるのかについて伺いたいと思います。それぞれのご経験を踏まえ、お聞かせください。


椎名:

スタートアップの課題って、要は「ないないづくし」なんですよね。規模が小さい、お金がない、ネットワークがない、チャネルもない。でも大企業はそういうものを持っている。ただ、動きが遅いんです。だから、大企業とスタートアップを掛け合わせることは誰でも思いつくし、実際にやろうとする。でも、大体うまくいかない。


その理由は、大企業側が思っている以上に動きが重たいからです。だから一番いいのは、大企業のメンバーが出向してスタートアップに入り、一緒に試行錯誤しながら動くことですね。たとえば、スタートアップが「資金が厳しい」と言っているタイミングで、どんな技術を開発すれば生き残れるかをリアルに考える。研究に「あと1000万円突っ込めば年内は持つか?」みたいなギリギリの状況の中で、経営感覚やスピード感を学ぶことが重要です。


そうやって生まれた技術や特許を、大企業の資本力を活かして売るのもいいし、共同で何かリリースするのもあり。大企業が持っている営業チャネルを活用するのも手ですよね。


大企業には本当に優秀な人がたくさんいます。人材の宝庫ですよ。でも、組織の管理の中で動きづらくなっている人も多い。だからこそ、そういう人たちを一度枠の外に出して、自由な環境で試行錯誤させる。その経験を持って会社に戻れば、「スタートアップってこんなに速いんだ」という意識も生まれるし、大企業の活性化にもつながるはず。そういう形で、もっとダイレクトに人材交流をするやり方もあるんじゃないかと思います。






林:

確かに、その点については、うちが業務資本提携している伊藤忠商事さんは、割とフットワークが軽いんですよね。「じゃあ、うちにも出向を入れようか」といった話を結構してくださる会社なんです。商社って、もともと子会社への出向が多いので、そういう動きに慣れているところもありますよね。


椎名:

そうそう、商社はまさにそうですよね。商社って、ほぼPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)みたいなもので、基本的に子会社ばかり持っているわけですから。


本体は実はバックオフィスぐらいしか機能していなくて、実際に稼いでいるのは子会社、というケースが多いんですよね。だから、子会社にいるのが当たり前になってきているんです。


林:

そうですよね。


椎名:

さらにそこから進むと、特に伊藤忠さんなんかは動きが早い。そういう意味では、こうした取り組みに向いている企業だと思いますね。


林:

そうですね。ただ一方で、伊藤忠さん以外の企業のお話を聞いていると、投資したスタートアップの存在を忘れてしまっているケースが結構あるんですよ。CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を使って100社、200社と投資しているんですが、もはや把握しきれていない。特に、大企業の中でも、自分の所属する事業部が何をしているのか、ましてや全社的にどんな投資をしているのか、よくわかっていないことが多いんですよね。


この会社とこの会社をつなげたら面白いのにとか、この事業部で営業できるのに、といった視点が欠けている企業が多くて、実際にうちが話を聞いたあるスタートアップも、出資を受けているのにまったくサポートがないと言っていました。


でも、それなら正直、出資を受けない方がいいんじゃないかと。うちのコミュニティに参加する大企業には、「手伝わないなら買ってください」と、ある意味サービスを買うぐらいの感覚で関わってほしいと伝えています。その代わり、我々もコンサルとしてしっかり価値を提供しながら、一緒に取り組んでいく。そうしないと、結局スタートアップ側も大企業側も不幸になってしまうと思うんですよね。単にお金を入れられるだけでは意味がない。







椎名:

今は資金が余り気味ということもあって、CVCが次々と立ち上がっている状態ですよね。あちこちでCVCができて、どんどん投資が行われている。その結果、スタートアップ側は資金調達がしやすくなっているわけです。


ただ、CVCって純投資じゃなくて、本来はシナジー投資のはずなんですよ。ところが、CVC側があまり細かいことを言わないケースが多いので、スタートアップ側も「口を出さない株主」という扱いをしてしまっているところがある。要するに、「お金だけくれる存在」になりがちなんですよね。


林:

まさにそうですね。


椎名:

だからこそ、シナジー投資をどう作るのか、双方がもっと真剣に考えないといけない。そうでなければ、せっかくの投資がうまく跳ねないんです。大企業とスタートアップ、それぞれが本気でシナジーを生み出す努力をしないと、結局どちらにとっても意味のないものになってしまう。そこをしっかり考えて取り組んでいくことが大事だと思いますね。


林:

まさに、おっしゃる通りだと思います。うちは今、IdeinさんのようなAIベンチャーに投資しているのですが、実はファイナンシャルリターンにはあまりこだわっていません。3億円投資して、上場時に3億円返ってくれば十分だと考えています。それよりも大事なのは、一緒にビジネスをつくること。シナジーを生み出すために、戦略的なリターンを重視し、Ideinさんとは膝を突き合わせてビジネスモデルを一緒に考えています。こうした関係を築ける企業を、いかに増やしていくかが重要だと思っています。


椎名:

INTLOOPさんのようなコンサル企業だと、自社で製品をつくって展開することは少ないですよね。でも、出資先のスタートアップはものづくりをしている。そういう企業に若手社員を送り込んで、実際にものをつくる経験を積ませるのはすごく意味があると思います。技術の喜びを知ることができるし、そうした経験を持ち帰れば「本当のDXとは何か」「AIを企業でどう活用すべきか」といったことを、実体験をもとに考えられるようになる。これは大きな価値だと思います。


林:

確かに、それは教育の一環としても活用できますね。


椎名:

そう、教育にもなる。若手社員に「行ってこい!」と送り出して、「あの会社の売上を2割でも上げてこい、上がらなかったら帰ってくるな!」くらいの勢いで経験させるのもいい(笑)。そうやって死にものぐるいで考えさせると、スタートアップの環境での働き方が身につくんですよ。


大企業では、そこまでの必死さが求められないことが多いですよね。そう簡単にクビになることもないし(笑)。でも、スタートアップは常に生き残りをかけて戦っている。全員が「会社がすぐ潰れるかもしれない」という危機感を持っている。この経験を積んだ社員が大企業に戻れば、全速力で仕事に取り組む、走り抜ける習慣が身につく。それ自体が、大企業にとっての大きなシナジーになると思います。


大企業って、成長するにつれて危機感が薄れていくんですよね。昔はあったはずなのに、だんだん忘れていってしまう。でも、スタートアップには常に危機感がある。この違いは、すごく大きいですよ。


林:

ただ、うちのような規模の会社からスタートアップに社員を出向させると、そのまま転職する可能性もあるんですよね(笑)。それはリスクかなと。


椎名:

いや、それアリだと思いますよ。全然アリです。林さんだってコンサル出身でしょ?コンサルなんてみんな転職するじゃないですか。だから僕は転職って、全然アリだと言ってるんですよ。


林:

でも、うちの会社から人がどんどんいなくなっちゃうのは…(笑)。


椎名:

いや、どこでも行けばいいんです。まあ「行け」とまでは言わないけど(笑)。たとえば、「PWCからデロイト行きました」「アクセンチュア行きました」って言われると、ちょっとムッとすることもあるけど、こっちも結局そういう人材を取ってるわけですよね。だったら、もう「部門異動」みたいなものだと思えばいい。業界全体がハッピーになればいいって思うようにしたわけですよ。


林:

なるほど。


椎名:

結局、どこに行ってもまた会うんですよ。転職した先で「お前このやろう!」とはならないじゃないですか(笑)。むしろ、「一緒にやろうぜ!」ってなることのほうが多い。ちょっと握手の力が強くなるかもしれないけどね。


だから、業界全体がハッピーになるのはすごく重要なんです。転職した人がその先で活躍してくれたら、それはむしろ僕らにとってもプラス。回り回って、絶対いい影響が返ってくるんですよ。


そういう考え方で、どんどん送り出していくカルチャーをつくるのもアリかなと。「INTLOOP出身です!」っていう人たちがいろんな企業の役員になっていたら、仕事もしやすくなりますよね。「あなたもINTLOOP」「あなたもINTLOOP」って、いろんなところに元INTLOOPの仲間がいる。そうなっていったら、今度は仕事がやりやすくなりますよ。


林:

確かに、確かに。


椎名:

要は、目先のことだけじゃなくて、業界全体の未来とか、もっと大きく言えば日本の発展のためとか、そういう視点で考えてもらえるといいと思うんですよね。


林:

わかりました。まだ即決はできないですが、持ち帰りの宿題にしたいと思います。


椎名:

ちょっと話が飛びますが、僕が関わっている日本障害者スキー連盟の定款に「世界平和に貢献すること」って書いてあるんですよ。最初それを読んだとき、「えっ、ウルトラマンじゃあるまいし、ちょっと大げさすぎない?」って思ったんです。でも、定款を変えるのも大変だから、会長になったときにそのままにしたんですね。


そしたら、3年前の北京パラリンピックのときにウクライナ紛争が始まった。それで、「スポーツで世界平和に貢献する」って、あながち間違いじゃないなと感じたんです。実際、ウクライナの選手を日本に招き入れようと動いたり、支援の基金をつくったりしました。


「世界平和」って仰々しいけど、意外とありだなと。そもそも「世界平和」に怒る人って、あまりいないじゃないですか。だから、業界の発展とか、日本の未来とか、ちょっと大きな目標を掲げるのはアリなんですよ。そのためなら、いろんなことが「やるべきこと」になる。


林:

うちも会社に入れてみますかね。社員に「どうやってやるんですか?」って聞かれそうですけど(笑)。



―― 最後に、お二人から、スタートアップコミュニティに参加したい方へのメッセージをお願いします。





椎名:

INTLOOPさんがこれからコミュニティをつくられるとのことで、とても楽しみですね。INTLOOPさんのようなコンサル企業が急激に成長する中で、これまでの「企業の課題を解決する」という役割を超えて、日本経済の発展のためにスタートアップを支援し、大企業とつなげる場をつくる。これは、とても意義のあることだと思います。


また、INTLOOPさんは人材の宝庫です。そうした優秀な人材が関わることで、コミュニティがさらに活性化し、参加者が大きく成長する機会にもなるでしょう。いいことばかりだと思います。まあ、唯一の課題は少しお金がかかることでしょうが(笑)


林:

そうですね。


椎名:

でも、その余力は十分あると思うので、ぜひ頑張ってもらいたいですし、皆さんも積極的に参加してみるといいんじゃないでしょうか。


林:

ありがとうございます。椎名さんがほとんどお話くださったので、私からは補足を。


私はコンサルキャリアとしては、アクセンチュアで8年、間に1年ベンチャーを挟んだくらいで、実はそこまで長くありません。それよりも、会社を創業して20年、営業や経営の経験を積んできた「商人キャリア」のほうが長いんです。正直、今は営業のほうがコンサルより得意になってしまいましたね。


これまで、ラーメン屋をやったり、ベトナムでお米をつくったり、メコン川クルーズの会社をやったり、農業にも関わったりと、さまざまな経験をしてきました。そうした経験を活かして、スタートアップの皆さんをつなげたいという思いがあります。


もちろん、商人なので自分もビジネスとしてしっかり回したい気持ちはあります。実際、椎名さんがおっしゃった通り、それなりにお金はかかるのですが、INTLOOPとしても責任者のメンバーには「必ず回収するぞ」とプレッシャーをかけています(笑)。でも、それはつまり、ベンチャーの皆さんもビジネスとして成功するようなコミュニティにしていくということです。


ぜひそんな場をつくっていきたいと思います。椎名さん、これからもご指導よろしくお願いします。


椎名:

はい、頑張ります。


林:

本日はありがとうございました。


椎名:

ありがとうございました。



*****



大企業とスタートアップの連携は、一方的な支援や投資ではなく、相互に学び合い、実践を通じて成長する関係でこそ真の価値を生み出します。本気で関わることで、新しい事業の可能性が広がるだけでなく、人材の育成や企業文化の変革にもつながるはずです。


INTLOOP発のスタートアップコミュニティ「IVIC」は、情報交換の場にとどまらず、事業を加速させるつながりの創出を目指します。スタートアップ同士が交流し、経験や知見を共有することで、新たなビジネスの機会や協業の可能性を生み出すと同時に、INTLOOPのコンサルティングや人材の強みを活かし、成長を後押しする仕組みも整えていきます。


ぜひ、今後の動きにもご注目ください!



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