特別対談:エッジAIの技術革新 × 戦略コンサルの知見――異なる強みのシナジーが生み出す新価値|Idein中村氏 × INTLOOP Strategy藤川(第1回/全3回)
- INTLOOP Ventures Innovation Community編集部
- 3月4日
- 読了時間: 10分
更新日:5月13日

本対談には、エッジAI分野で革新を続けるIdein株式会社 代表取締役/CEO・中村晃一氏と、コンサルティング事業に強みを持ちつつイノベーションを推進するINTLOOP Strategy株式会社 代表取締役社長・藤川正太が登場。両社の最新の取り組みや、テクノロジーと戦略の融合がもたらす未来について語り合いました。また、スタートアップの成長に欠かせない「ヒト・モノ・カネ」の視点から、各成長フェーズに応じた支援を提供するコミュニティ「IVIC」の特徴や可能性についても議論を深めました。
第1回となる本記事では、Idein社とINTLOOP Strategy社が資本業務提携に至った背景に迫ります。それぞれの強みをどのように活かし、どのようなシナジーを生み出そうとしているのか、その狙いをご紹介します。
―― まずは、お二方の事業内容、およびご経歴について簡単にお聞かせください。
中村氏(以下、中村):
Idein株式会社 代表取締役/CEOの中村です。当社が取り組んでいるのは「エッジAI」というテクノロジー分野です。エッジAIの技術を活用し、カメラやマイクといったデバイスにAIを搭載することで、さまざまな物理的な現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進するプラットフォームを提供しています。
私の経歴ですが、前職はなく、東京大学でスーパーコンピューターの研究を行っていました。その後、後期博士課程の途中で中退し、Ideinを創業しました。よろしくお願いいたします。
藤川:
INTLOOP Strategy株式会社の代表を務めております、藤川と申します。
当社の事業は大きく3つの領域に分かれています。1つ目が戦略コンサルティング事業、2つ目がイノベーション事業、3つ目がインベストメント事業です。
本日の対談テーマである「IVIC(INTLOOP Ventures Innovation Community)」は、まさにこのイノベーション事業の一環で、INTLOOPおよびINTLOOPのステークホルダー、経済圏を広げていくということをコンセプトに展開しています。
私自身のキャリアとしては、戦略コンサルティングの分野で約15年間の経験を積み、現在INTLOOP Strategyの代表を務めています。どうぞよろしくお願いいたします。

―― ありがとうございます。お二方は昨年の資本提携が決まってから、密にディスカッションを重ねていると伺いました。資本業務提携に至った経緯を教えていただけますか?
中村:
もともとは、私の知人のツテで林社長をご紹介いただいたのが最初のきっかけでした。その後、社長を訪問させていただいた際に藤川さんをご紹介いただき、その場で意気投合したんです。
私たちが必要としていたケイパビリティをINTLOOPさんが持っていたこと、お互いのニーズが合致していたことが大きな決め手でしたね。それに加えて、藤川さんの人柄や考え方に共感し、「ぜひ一緒に仕事がしたい」と強く思ったこともあり、こちらからお願いをしたという流れになります。
藤川:
ありがとうございます。私のほうからも補足させていただきます。
Ideinさんは、エッジAIを活用したソリューションを提供されています。特に、人流や物流の分析において、高精度なセンシング技術を持っており、そのデータを活用した高度な分析が可能です。
この技術の価値は、さまざまな産業に応用できると考えました。たとえば、交通分野では渋滞の解消、コンビニエンスストアでは消費者の動向分析など、日本が抱える社会課題の解決にも貢献できる技術です。
一方で、私たちはコンサルティングとエンジニアリングを基盤とする企業です。プラットフォームを提供するIdeinさんと、課題解決から実際のシステム構築までを担う私たちが協力することで、大きなシナジーを生み出せると考えました。こうした背景があり、資本業務提携に至ったという経緯です。
―― 藤川さんとしては、やはりエッジAIがあらゆる産業に拡張できるという点に、ワクワクを感じたということでしょうか?
藤川:
そうですね。エッジAIの可能性には大いに期待していますし、さまざまな業界に展開できると確信しました。
それに加えて、先ほど中村さんからありがたいお言葉をいただきましたが、実は私たち、同じゲームをやっているという共通点もありまして(笑)。そういうちょっとしたきっかけもあり、個人的にもすぐに打ち解けることができたんですよね。そういった部分での距離の近さも、今回の協業の後押しになったのかなと思っています。
―― 中村さんのIdein株式会社は、国内シェアNo.1のエッジAIのプラットフォームを運営されています。それでもなお、INTLOOPが補ってくれる部分があるということでしたが、具体的にはどのような点でしょうか?
中村:
我々のビジネスは「プラットフォームの提供」が中心なんです。つまり、それ単体では完成されたソリューションにはならないんですよね。
たとえば、OSがあっても、その上に動くアプリがなければユーザーにとって実用的ではないのと同じで、我々が提供するエッジAIのプラットフォームも、そこにアプリケーションやシステムが組み合わさって初めて価値を発揮します。
この「アプリ開発」や「システムインテグレーション」、そして実際に現場へ導入していく「デリバリー」の部分が非常に重要になります。特に我々はカメラやマイクといった物理的なデバイスを扱うため、ソフトウェアだけで完結するSaaSとは違い、現場への導入プロセスがかなり複雑なんです。ここにINTLOOPさんの強みが活かせると感じました。
もうひとつ、大きなポイントとしては「市場の成熟度」です。AIやデータ活用のポテンシャルは非常に高いですが、現時点ではお客様がその価値を十分に理解しきれていないケースも多いんです。そうなると、ただソリューションを提供するだけでなく、上流から「どのように課題を解決できるのか」をしっかりコンサルティングする必要がある。
このように、「上流の戦略設計」から「実際のデリバリー」までを一貫して支援できるINTLOOPさんのケイパビリティと、我々のプラットフォームは非常に相性が良かったというわけです。

―― 今のところ、手応えは感じていますか?
中村:
もちろんです。すでに具体的なサイクルについて相談を重ねているところですね。
―― 中村さんは2015年に在学中に創業されたとのことですが、成長スタートアップが直面する壁についてお伺いします。具体的にはどのような課題にぶつかることが多いですか?
中村:
そうですね、本当に壁にぶつかってばかりという感じです。特にグロースフェーズに入る前は、とにかく一点突破型で動くことが多いんですよ。品質などを多少後回しにしてでも、お客様を獲得し、価値を示すことが最優先になります。ですが、実際にお客様がついて、IPOが見えてくる段階になると、それだけでは通用しなくなります。継続的に価値を提供するための体制づくりが必要になるんですね。
スタートアップの成長スピードはとにかく速く、何もないところから急激に立ち上げなければなりません。特にバックオフィス機能が不足しがちで、「何が足りないのか」すら、わからない状態になることもあります。採用に関しても、適切な人材を面接で見極めるのが難しい。さらに、投資家の資金を使っている以上、無駄遣いはできません。
実際、当社では一人の社員がどんどんジョブチェンジしていくというケースがありました。ビジネスのボトルネックが数カ月単位で変わるので、マーケティングが課題になったと思えば、次はセールス、さらにデリバリーへと、次々にテコ入れが必要になる。しかも、それぞれゼロから立ち上げる必要があるので、「ここにはどんな人を置くべきか?」という問題に常に直面するんです。私はエンジニア出身なので技術職はある程度わかるんですが、それ以外のポジションについては手探りでしたね。
藤川:
起業では「ヒト・モノ・カネ」が重要だと言われますよね。Ideinさんの場合、「モノ=ソリューション」はすでに持っていました。エンジニアとしてAIの知見もあり、技術的な強みは十分だった。一方で、マーケティングや組織の管理、ファイナンスといった「ヒト・カネ」の部分が課題になった、ということですね。
中村:
そうなんです。そもそも「このポジションのトップには誰を立てるべきか?」というところからわからない状態でした。面接をしても、どんな経歴やスキルを持っている人が適しているのかがわからない。しかも、限られた予算の中で最適な人材を確保しなければならないので、人の問題は本当に大きな課題でしたね。
藤川:
資金面での課題についてもお聞きしたいのですが、創業当初の資金調達はどのような状況だったのでしょうか?現在は市場から「メガベンチャー」と評価され、大手日系上場企業からの資本注入もあり、数十億単位の資本を確保されていると思いますが、スタートアップ時点ではどのような壁がありましたか?
中村:
実は資金調達に関しては、レイターステージの方が難しいんですよ。理由はいくつかありますが、一つはレイターの段階で参画する投資家が少ないこと。そしてもう一つは、今のスタートアップ市場全体が大きく落ち込んでいることですね。
特にSaaSバブルが崩壊した影響で、スタートアップ全体の評価額が下がっています。我々のようなAI関連の企業は、AIブーム絶頂期に高いバリュエーションが付いたこともあり、現在その評価を維持できているのは幸いですが、多くの企業はダウンラウンド(前回より低い評価額での資金調達)をせざるを得ない状況です。そうなると、どうしてもファイナンスは厳しくなります。これは当社だけではなく、今のスタートアップ全体が直面している大きな課題だと思いますね。

―― 藤川さんにお聞きしたいです。経営者として、日々の資金配分や投資判断で特に難しいと感じるのはどのような場面ですか?
藤川:
私自身も経営者として、日々お金の使い方について意思決定を求められています。そのため、同じような悩みを抱えながら経営に取り組んでいますね。
たとえば「人の採用」においても、特定のスキルを持った「Aさん」という人を採用する際、その適正な報酬がいくらなのかは、専門外の領域になると判断が難しいことがあります。さらに、Aさんが大企業・ベンチャー・スタートアップのどこで雇用されるかによって、報酬のレンジは大きく変わります。企業の成長フェーズや市場の状況によっても異なるため、「適正な値付け」というのは、経営者にとって永遠の悩みの一つだと感じています。
INTLOOPも成長途上のグロース市場に上場している企業ですが、競争相手は大手コンサルティングファームやSIerなど、規模の大きな企業が多い。そうなると、人材の獲得競争が激しくなり、「どこまで条件を上乗せして採用するか」といった判断が非常に難しくなります。給与の話は生々しいですが、経営の現場では避けて通れないテーマですね。
さらに、市況によって人材の価値は変動します。たとえば、今は適正とされている報酬レンジも、3年後にはAさんのスキルが市場で急激に評価され、さらに高い報酬が求められる可能性もある。そのため、企業としては、週次や月次レベルで市場の情報をキャッチアップし続けなければなりません。適正な価格で人材を確保し、適切なオファーを出すことは、経営者にとって非常に難易度の高い課題だと考えています。

―― 続いて、中村さんにお聞きしたいです。リソースの一つとして、お金の配分の仕方はどのように学んできたのでしょうか?誰かから教わる機会はありましたか?
中村:
正直、誰も教えてはくれませんでしたね。シリーズAの段階で投資家の方々から指導を受けることはなく、「計画を作れ」と言われ、作ったものに対してフィードバックをもらう、というような形でした。
藤川:
なるほど、なかなか厳しいですね(笑)。
中村:
本当に何も教わることはなかったですね。ただ、当社はお金の使い方がうまいとは言えず、シリーズAの頃は「使い方が下手だ」と投資家から指摘されることもありました。たとえば、当時の私たちは交際費の予算がゼロだったんです。
藤川:なるほど、なるほど(笑)。
中村:当時は営業活動に全くお金を使っていませんでした。そもそも「営業」というものを理解していなかったんです。
藤川:まさに「ザ・エンジニア集団」ですね。
中村:そう、本当にエンジニア集団でした。営業担当も一人もいなくて、何年も交際費ゼロ、会食ゼロの状態でやっていたんです。そんな状況を見た投資家から、「これは一体何なんだ?」と驚かれましたね(笑)。そこで初めて、「適材適所でちゃんとお金を使うべきだ」とアドバイスをもらいました。ただ、それ以外は特に細かく指導されるわけでもなく、ほとんど放任に近い感じでしたね。
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本記事では、エッジAIと戦略コンサルティングに強みを持つ2社の融合が協業に至った背景や、経営に不可欠な「ヒト・モノ・カネ」を扱う難しさについて語り合いました。
次回の第2回記事「成長の壁を乗り越えるために。スタートアップ支援コミュニティ「IVIC」が目指す姿とは」では、新たに生まれるコミュニティ「IVIC」が果たす具体的な役割や、コミュニティの意義、参加する魅力などについて詳しく掘り下げていきます。ぜひ、あわせてご覧ください!