AI活用で生き残る企業、乗り遅れる企業──分かれ道はどこにある?(第2回/全5回)
- INTLOOP Ventures Innovation Community編集部
- 4月14日
- 読了時間: 7分
更新日:5月13日

イントロダクション
前回は、人口減少が進む日本において、AIやデジタル技術がどのように生産性向上に貢献するのかについて対談を進めました。テクノロジーの進化は、地方や産業の在り方を変え、働き方にも大きな影響を与える可能性があります。
今回はその流れを受け、「AI活用で生き残る企業、乗り遅れる企業──分かれ道はどこにある?」をテーマに取り上げます。AIの活用が加速する中で、企業間の競争力の差はますます広がっていく現在。今後、どのような企業が先を行き、どのような企業が遅れをとるのか? そして、AIを導入する際に重要となるポイントとは?
スタートアップを中心に、多くの企業との関わりを持つ椎名氏・林の視点から、AI時代を生き抜くための具体的なヒントを探ります。
―― 次のテーマは「AI×乗り遅れる企業・乗り遅れない企業」です。AIを上手に活用できる企業と、そうでない企業の違い、またAIを導入する際の留意点について、お話いただければと思います。
椎名:
最近は減りましたが、AIを使うことに対して怖がる企業もありましたよね。情報流出のリスクやセキュリティの問題が懸念され、「使うな」と言っていた企業も多かったです。
ただ、それはルールを決めれば解決できる話で、今では大手の日本企業はほとんどAIを導入しています。もしChatGPTが怖いなら、安全性の高い機能を持つツールを使えばいい。たとえばマイクロソフトが提供しているCopilotでは、企業向けのセキュリティ対策も施されています。
それに、生成AIの進化は本当に速いんですよ。「もうこんなことができるようになったのか」と驚くことが次々と出てくる。このスピード感についていきながら、新しい情報をキャッチし、使いこなしていく企業が強くなっていくでしょう。
一方で、乗り遅れる企業は、そもそもAIをあまり使っていないか、導入はしていても推進の姿勢が弱い。単に「使っていいですよ」だけでは、使う人と使わない人に分かれ、結果的に組織として活用度が低くなってしまいます。そうなると、競争力のある企業と比べて徐々に遅れを取っていくことになると思いますね。
林:
確かに。ただ、私が大手企業の方々と話している限りでは、まだそこまでAIを使いこなしている企業は少ない印象です。導入してはいるけれど、活用の仕方が追いついていないという感じですね。
だからこそ、椎名さんがおっしゃるように、ここで一歩、二歩先に行ける企業は、相当な生産性向上を実現できるはずです。その応用編を、我々のようなコンサルティング会社がソリューションとして提供し、AI活用の支援を進めるのも一つの手でしょう。
もちろん、AIが進化しすぎると、いずれは我々の仕事もなくなる可能性はあります。でも、それでも最初にこうした先進的な企業を生み出すことこそ、我々の役割の一つになるんじゃないかなと考えています。

椎名:
新しいツールが出るたびに、「仕事がなくなる」と煽る人たちが必ずいますよね(笑)
林:
いますね(笑)
椎名:
そういう話が出ると、結局その「不安を煽る側」が儲かったりするんですが、実際には仕事が完全になくなるわけではないんです。確かに消える仕事はあります。でも、それと同時に新しい仕事も生まれる。
たとえば、かつて自動車が登場したとき、「馬車がなくなる」と大騒ぎされましたよね。確かに馬車の仕事は減りましたが、その代わりにタクシー運転手の仕事が生まれた。結局、技術の進化に伴って仕事の形が変わるだけで、完全になくなるわけじゃないんです。だからこそ、新しいことが出てきたら柔軟に対応していくことが重要だと思います。
林:
そうですね。実はその考えもあって…少し自社の話になりますが、私たちは「食共創パートナーズ」という会社を立ち上げたんです。AIとは少し分野が違いますが、農業や食品関連の事業に関わる会社で、食品の卸会社さんと一緒にファンドを作り始めています。
食の仕事も一部AIやITの活用が進んでいますが、どうしても人の手が必要な部分が多い。特に日本食は世界的にも評価が高いので、この分野で生産性を向上させる支援ができればと思っています。
椎名:
確かに。日本の飲食業界って、日本食に限らず、イタリアンや中華でもレベルが高い。だからこそ、インバウンドの観光客が来ても「おいしい」「しかも安い」と喜んで帰るわけですよね。今は円安もあって、さらにその魅力が際立っています。
ただ、それを支える現場の人たちがもっと幸せになる働き方を考えていかないと、大変な状況になりかねない。
林:
おっしゃる通りです。
椎名:
だからこそ、どうすれば飲食業界の人たちがもっと良い形で働けるかを考えることが重要ですよね。林さんがそこに目をつけたのは、すごく良いことだと思いますよ。

林:
ありがとうございます。
椎名:
それに、農業もかなり科学化が進んできていますが、まだまだ改善の余地がたくさんありますよね。
林:
そうですね。
椎名:
AIやDX、ロボット技術などをうまく組み合わせて、より効率的な農業を実現していくことが重要ですよね。こうした技術を活用する場が増えていくことが、業界全体の発展につながると思います。それこそ「共創」というキーワードがしっくりくるかもしれませんね。
林:
そう考えると、対談の冒頭で話していた「地方がなくなる」という問題も、ある程度は回避できるかもしれませんね。もちろん、ある程度は都市部に集約し、スマートシティ化を進めないとインフラの問題は解決しませんが、農業はどうしても地方で行う必要があります。だからこそ、過疎化の進行を食い止めるきっかけにもなるのではないかと思います。
椎名:
農地は基本的に田舎にありますからね。
林:
そうなんです。東京では農業はできませんから。
椎名:
だからこそ、地方の農地とどう連携するかが大事になってきます。日本は大規模農家が少ないため、農業の収益性が低くなってしまうのも問題です。少子化が進む中で、農業をどう大規模化し、省力化・自動化していくのかを考えることが、今後ますます重要になっていくでしょうね。
林:
そうですね。実際に私の友人でも農家をやっている人が何人かいますが、話を聞いていると、最近はトラクターの自動運転化など少しずつ進化してきているようで。「おっ、進んでるな」と思うんですけど、そもそも農業の土地は区画が決まっているので、トラクターの自動運転は比較的導入しやすいんですよね。でも、もう一歩先のソリューションが必要だと思いますし、出てきてはいるものの、まだまだ足りない部分も多いと感じています。
椎名:
しかも、日本の農業用トラクターって小型のものがほとんどです。アメリカの場合、広大な農地を1台のトラクターが走るだけで済むので、導入も簡単なんですよ。でも、日本は地形が複雑で、棚田も多く、トラックすら入れない場所もある。観光的には美しい風景かもしれませんが、農業の生産性を上げるには厳しい環境です。こういう場所をどう活性化していくか、デジタル技術やロボット、自動化をどう取り入れて省力化していくかは、まだまだ考える余地も多く、大きな課題ですよね。
林:
おっしゃる通りです。だからこそ、我々のファンドを活用して、ソリューションを提供しながら農業の効率化にも寄与していけたらと考えています。
椎名:
そういう現場にINTLOOPの社員をどんどん送り込んで、改善を進めて生産性を向上させていく。で、成果が出たら、その分の報酬をいただくような仕組みも面白いかもしれませんね。
林:
それ、いいですね。新卒の教育にもなるかもしれませんし。
椎名:
それはめちゃめちゃいいアイデアですね。
林:
確かに。話していて思いつきました(笑)。

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AIを活用できる企業とそうでない企業の違いは、単なる導入の有無ではなく、「活用する姿勢」にあります。新しい技術を柔軟に取り入れ、使いこなす企業は競争力を高める一方で、慎重すぎる企業は次第に遅れをとるでしょう。
また、AIの進化は仕事を奪うのではなく、新たな仕事を生み出すものです。今回の対談では、変化を恐れず、「共創」の視点でAIを活用することの重要性についても議論が交わされました。
次回(第3回)「ビジネスを加速させるコミュニティの力。『共創の場』が生む新たなイノベーション」では、これからの時代に求められるコミュニティのあり方と可能性について深く掘り下げます。ぜひ、あわせてご覧ください。